「きらめき」文化講座案内

最晩年の芭蕉
     〜 その作風と人生哲学に迫る〜



講師:小西 愛之助 氏(元大阪芸術大学教授)

 
  講座のねらい
 
 多くの句を世に残した芭蕉。とりわけ、その晩年には多くの名句と言われているものが作られています。
 その中でも京都滞在中、および最期の地となった大坂で詠まれた句には「軽み」が色濃く表現されています。
 芭蕉の最晩年である元禄七年の作品をともに鑑賞しましょう。この元禄七年は芭蕉の芸術が最高に結晶した年でもあります。 

  ある日の講座風景

 先生ご自身の研究成果をまとめたプリントが毎回受講者に提供されています。
 今回は元禄七年、京の嵯峨野(落柿舎)に滞在中の作品を味わう講座でした。句の意味や背景が解説されました。

 芭蕉の俳句は、旅を通しての実体験を踏まえながら,何度も推敲(すいこう)を重ねた後がうかがえます。
1 朝露によごれて涼し瓜の泥
2 朝露によごれて涼し瓜の土
3 朝露や撫でて涼しき瓜の土
 この三つの句を比べながら、芭蕉の真髄に迫っていかれました。
「この三つの句のうち,皆さんはどれがお気に入りですか?」と受講者の皆さんへの問いかけもあり、受講者との意見交流の場にもなっていました。

 また「軽み」についてもていねいな解説がなされていました。
 平易な言葉(軽み)を用いながら、深く人生観や哲学的なものを表現した芭蕉の俳句を深く味わうことのできた90分でした。

  講師のコメント
 
 芭蕉の句に死の4日前に詠んだ「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」があります。
 芭蕉には、辞世の句はないと言われていますが、私はあると考えています。この句の翌日に詠んだ(改案した)「清瀧や波にちり込青松葉」が辞世の句だととらえています。青に桃青という芭蕉の雅号、松葉に松尾が盛り込まれていることが根拠になっています。
 一般的に芭蕉の俳句の世界は、「侘び・寂び」が強調されていますが,同時に「軽み」も芭蕉の俳句を味わうときに重要なポイントになっています。
 芭蕉は、この「軽み」を西国の門下生に伝えるために江戸をたち、京・大坂へと旅をしたのですが、大坂における蕉門の人間関係の調整も重要な目的となっていました。その途上で、元禄七年十月二十四日に永眠しました。

  受講生のコメント

・自分の人生経験の中から一番縁遠いものとして芭蕉の世界に挑戦しました。『芭蕉俳句集』をひも解きながら、その中に新たな喜びを感じています。
・もともと芭蕉の句に興味がありました。たった一言で人間観や自然観を表現する言葉の妙味を知ることができました。
・芭蕉は、平易な言葉を使いながら、誰も気がつかない視点を見せてくれています。
・昨年、「おくのほそ道」の講座を学習したので、続いて今年も受講しました。講師のていねいな解説のおかげで理解が深まってきています。
・俳句に興味があり、家族にもすすめられ、受講しました。
・専門的な内容が多いのですが、作品を何度も読むことによってだんだんと分かってくるようになりました。

  取材アシスタントのコメント

・普通、「おくのほそ道」は、「奥の細道」と理解されていますが、芭蕉が清書した表書きではひらがな表記になっています。ここで講師のお話を通じて、「道」だけを漢字にし、そこに焦点を当てたところに芭蕉の意図を知ることができました。
・インタビューを通じて、講師の芭蕉に対する真摯な取り組み姿勢に感銘を受けました。