エッセイわたしの時間

第15回

 「毎日仕事に追われて忙しく、旅行に行く余裕もない」「音楽を聴く時間もない」と人は言う。現役の間は仕事に励み、家庭を大切にするのは当たり前である。しかし、自分の時間が全く作れないはずはないと思う。目標を定めてプランを立てれば仕事の効率もよく、結構自分の時間が作れて規則正しい日々が送れるように思う。
 私は五十年以上もアメリカ南部のアパラチアン山岳地方の伝承音楽である「ブルーグラス・ミュージック」を愛し続けてきたが、忙しい時ほど家に帰ってからそれを聴くようにしてきた。バンジョーやギターやマンドリンが刻む心地よいリズムと一味違った哀愁漂うアイリッシュ奏法のフィドル(ヴァイオリン)の音色が、疲れた私を癒してくれた。
 仕事と趣味のバランスを取ってうまい時間の使い方ができるのは、人生においてとても大事なことと思う。「趣味」と「道楽」を混同する人もいるが、無意味な「道楽」と「趣味」は全く異なる。人間関係を豊かにして新たな文化を創造する「趣味」は、生涯学習の原点と言える。私は今それを実感しながら「(人との)輪」「(交流の)話」「(心の)和」を噛みしめて日々を過ごしている。

東實 文男