市民インタビュー

 茨木市民の中からいきいき生活の達人を探し出し、紹介するコーナーです。話から見えてくるその豊かな人生に、あなたもきっと勇気づけられることでしょう。

 幼少の頃から音楽と絵と科学が大好きだった井上さん。春日丘高校美術教諭時代から描く「イバラード」は、画家として独立し、大学教授として指導にあたる現在も、その独自の世界を広げて続けています。
 井上さんが描く「イバラード」の世界とは。「自分」が存在する意味とは・・・。
井上さんが影響を受けたものは何でしょうか。
 私は絵だけでなく、音楽や物語も大好きでした。音楽は、父がレコードで「ウィリアム・テル序曲」「ラ・クンパルシータ」などを聴かせてくれました。物語は「少年ケニヤ」「少年西遊記」などを、長じてからは、宮沢賢治やカフカなどを好んで読みました。絵は、雪舟や東山魁夷、ゴーギャン、セザンヌ、ダリなどが好きでしたね。色彩ではモネ、写実では現代アメリカリアリズム絵画のアンドリュー・ワイエス、また、世紀末のパリを撮った写真家ウジェーヌ・アッジェが好きで、このあたりの影響も受けていると思います。  
 高校時代に聴いたビートルズの影響は大きいですね。歌詞や曲、音響効果、アルバムのコンセプトなどすべて自分たちで作るという姿勢は、音楽だけでなく創作活動全般や生き方にも通じます。


「イバラード」とは何でしょう。
 私が描いている絵の世界の地名で、宮沢賢治の「イーハトーブ」にならったものです。先入観や思い込みを取り払って見たこの世界、子どもや異邦人の目で見直したこの現実を描いています。もちろん「イバラード」は「茨木」から取っています。


「イバラード」の世界はどのような発想から生まれたのですか。
 一つは、幼い頃の「なつかしいあかり」や「麦畑」など。二つめは、夢などの無意識の世界。三つめは、何かのときにふと思い浮かんだ情景です。私はいつも映像を先に思い浮かべて、意味は後で考えます。

宮崎駿作品との出合いを教えてください。
 初めて宮崎作品を見たのはマンガの「風の谷のナウシカ」です。宮崎監督に初めて会ったのは、東京での私の初個展で、招待状を出したら見に来られて、映画「耳をすませば」の空想場面を描くことになりました。

今後どのような絵を描こうと思っていますか。
 キャンバスに向かって描き始めるまで、何を描くのか決めないし、また、仕上がるまでそれがどういう作品になるのか分かりません。描くことによって何かを発見します。それでもあえて言うなら「まだ誰も見ていないが、とてもなつかしく心くつろぐ、当然あってしかるべき世界」の様子を描いた絵ですね。

井上さんにとって「生涯学習」とは何ですか。
 「生涯学習」という言葉で考えたことはないですが、「科学と歴史の新しい知見に触れること」や「(絵を描くことによって)この世界の新しい見方に気づくこと」でしょうか。私はここ数年、アイルランドやスウェーデンなどのあまり知られていない地域を訪ねて、その風土や歴史を知ることで自分を見直すということがあります。絵を描くこと、音楽を作ることなども含めてそれらは結局、この世界の本当の姿を知り、自分がここにいることの意味について考えることになると思います。その方法として、人に勧められてとか多くの人の示すところに従ってとか、言葉や理論・理屈で考えてということではなく、「何となく心引かれるもの」「自分の心がより活性化する対象」など、自分の心の声に耳をすませるということではないでしょうか。

「Nakatsuの庭」
(中津コミュニティセンター)


担当:野間 林田