市民インタビュー
第33回
 茨木市民の中からいきいき生活の達人を探し出し、紹介するコーナーです。話から見えてくるその豊かな人生に、あなたもきっと勇気づけられることでしょう。

こより細工の名人
ほり
した
まさ
よし
さん
 今から40年ほど前、ふとしたことがきっかけでこより細工を始めることに。以後、数々の作品を制作する。松や梅の盆栽は、新聞紙や広告紙などの身近なもので作ったとは思えないほど、見事な作りに仕上げられている。
こより細工を始めたきっかけは何だったのですか。
 昭和39年11月のことです。岡山からの汽車での仕事帰り、食堂車の席に座りテーブルに置いてある紙ナプキンでこよりを作っていると、ふと、飾ってある一輪の菊が目に入りました。「この花、こよりで作ることができないかな」と思い、試しにと、こよりの先を花びらに似せて作りそれらを寄せ集めると、ちゃんとした菊の花が出来上がったのです。いろいろなものを作り始めたのはそれからです。翌年4月の娘の結婚式では、美容師さんが忘れた髪飾りの代わりに、私がこよりで菊の花を作り、娘の髪に飾りました。

あの立派な盆栽の材料は何ですか。
 ご覧になった皆さんは、「立派な盆栽ですね」と言ってくださいます。でも材料費はどの作品も千円もかかっていないんです。紙ナプキンや新聞紙、包装紙、広告紙、麻のひも、糊、接着剤、水彩絵の具など身近なものを利用して作っています。
 作り方を簡単に説明しますと、まず、色を付けたこよりで花や葉などを作ります。おしべ・めしべもそれらに合わせて作ります。次に、幹や枝を作ります。細い棒状(鉛筆くらい)にした古新聞を何本か集めてひもで縛ります。それを枝ぶりに合わせて曲げていき、形を整えます。そこに広告紙を焼いて出来た灰と糊、細かく切った新聞紙を合わせて練ったものを貼り付けます。広告紙の色合いで灰の色が違ってくるので、幹や枝に微妙な色合いを出すことができます。最後に、先に作っておいた花や葉を一つずつ付けていきます。 

制作での苦労はありますか。また、心掛けていることは。
 幹や枝の色と質感を出すのには苦労しました。何度も失敗してやっと納得するものができるのに3年かかりました。
 私の作品はすべて紙で出来ていて、生きてはいませんが、そこに命を吹き込むくらいの気持ちで作っています。どうしたら木や花が生き生きとして見えるのかをいつも考えています。
 こより細工を作っていて、私が心掛けていることは、素直な気持ちを持つということです。「いいものを作ってやろう」とか「人から褒めてもらおう」などと思って作るとあまりいい出来映えにはなりません。無心で作ることが大切だと思います。

作品を通じて伝えたいことはありますか。
 今、私は85歳です。指先を使うこより細工ができるのは、せいぜいあと3・4年かななどと思うことがあります。最近は視力も弱くなりました。今のうちに、こより細工を誰かに託したいのです。作品をご覧になった方々の中で誰かが、ただ「きれい」と思うだけでなく、「どうやって作ってるんだろう」「私も作ってみたい」と思ってほしいのです。そういう方に、作り方のすべてを伝えて、こより細工が絶えないようにしたいのです。それが今、私の一番の願いです。

こよりを作る堀下さん
堀下さんの作品