第28回

 孫が小学生になった今、子どもの頃の祖母のことがなつかしい。
 休暇の度に妹と二人で、市電に乗って祖父母の家へ遊びに行った。
 ガラガラーと玄関の戸を開けると、祖母は「早かったなあ。ようきたなあ。大きいなってえ」と満面の笑みで迎えてくれた。私たちは少し誇らしげに、大きな荷物をさげて、茶の間に入っていく。祖母はまた「今日は何食べたい?何でも好きなもんいいや」と尋ねてくれる。うれしくて目の前がパーッと明るくなった。
 寒い夜は、おこた(コタツ)に、たどんや豆炭を入れてもらって、おまく(枕)を引き寄せ、こっぽりとふとんにくるまる。そして朝、目が覚めると枕元には、おめざ(目覚まし)のドロップスが待っていた。夢うつつで口に入れると、じわじわと体中に広がる甘さ、おいしさ、あたたかさ・・・。やがて、誰かが、お弁(弁当)を持って出かける気配。「お早うおかえり」と送り出す祖母の声。次に「さあ起きやあ」と私たちの部屋に入ってくる。とたんに二人は勢いよく「うわー」とはね起きておばあちゃんをびっくりさせた。
 半世紀前の懐かしい一コマ。

糸井 治子