生涯学習センターきらめき講座
生涯学習センターきらめきでは、多くの市民の皆さんがさまざまな講座を受講し、楽しく学習しています。
今回は、角田宏子先生が担当されている「『古今和歌集正義』を読む」と、川添有希夫先生が担当されている「ワイン&カクテル講座」を紹介します。

『古今和歌集正義』を読む

天つ風 雲のかよひ路 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ (僧正遍昭)

この歌は百人一首でおなじみの歌ですが、ほかにも『古今和歌集』から幾つかの歌が百人一首に採られています。
『古今和歌集』とはどのような和歌集なのでしょう。また、『古今和歌集正義』とはどのような注釈書なのか
角田先生に伺いました。     
                                
『古今和歌集』とはどのようなものなのか教えてください。
 平安時代の初めに醍醐天皇の勅命で編纂された最初の勅撰和歌集です。当時は中国の文化にならって漢詩が盛んになり、公の場で和歌が詠まれなくなっていたのですが、その和歌を再興させようとして撰集されました。
 全20巻、約1100首の歌が、季節・恋・離別などに分類され、さらに時間的推移によって、あるいは、言葉の緊密なつながりによって巧みに配列されています。『古今和歌集』の「今」は、紀貫之ら撰者たちの時代、「古」は、それより一時代前、つまり『万葉集』以降すたれていた和歌が公の席で詠まれ始める六歌仙時代(小野小町、在原業平、僧正遍昭、喜撰法師、文屋康秀、大友黒主)を指します。





『古今和歌集正義』とはどのような注釈書ですか。
 江戸時代末に生きた香川景樹という人物が残したもので、出版物が完成したのは明治28年です。香川景樹が原稿に何度も手を入れ、弟子たちに伝わったものが原稿として整えられ出版されました。総論と『古今和歌集』の仮名序(仮名で書かれた序文)、各歌の考察から構成されています。
 『古今和歌集』には、100を超える注釈書があります。 『古今和歌集正義』は古典注釈の集大成と言えます。時期的な意味のみならず、古典注釈では、ほかの注釈書より分量的にも言葉多く丁寧に歌を解いています。現代の科学的な注釈からみれば偏ったものですが、純粋な感動には自ずと優れた調べが備わるという、和語の「調べ」を重視した独特の価値観で和歌を解釈しています。

『古今和歌集』の歌をいくつか教えてください。
 百人一首には、『古今和歌集』の歌が24首採られています。「久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ」(紀友則)や「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山にいでし月かも」(阿倍仲麻呂)はよく知られていますが、次の歌も『古今和歌集』を代表する名歌だと思います。

 むすぶ手の しづくににごる 山の井の 
          あかでも人に 別れぬるかな

                 (離別歌 紀貫之)

 詞書(歌が詠まれた事情を説明した文)については省略しますが、上句が序詞として下句のたとえになっています。山越えの途中、のどの渇きを湧き水で癒そうとするのですが、滴るしずくで清水はすぐに濁ってしまいます。そんなふうに別れて来ましたと詠んでいます。「別れぬる」の「ぬる」は出来事が完了していることを示します。清らかな水を人に対する純粋な思いの象徴としてとらえ、掌で幾度も水をすくっても癒えないのどの渇き、もどかしい思いを、上句をイメージとして作り上げることで慰めています。平易な言葉から深い思いが伝わってきます。

和歌の魅力はどこにありますか。
 文学そのものが精神的な世界を扱う魅力的なものですが、なかでも和歌は、自然とともに生きている人間の心情が時を超えて直接的に伝わってくるのが魅力ですね。始まりがあれば終わりがあるという自然の姿を見つめている歌々は、不安な人間の生を、人もまた自然の一部なのだとして安心させ支えてくれるものになっています。。