市民インタビュー
第38回
 京都で仏師の修行を始めてから40年。馬渕さんは現在も仏像に向かい、魂のこもった仏像づくりに励んでおられます。住職でもある馬渕さんに、仏像づくりの技法や心の在り方について伺いました。

仏 師
ぶち
けん
ぽう
 
さん
 京都で仏師の修行を始めてから40年。馬渕さんは現在も仏像に向かい、魂のこもった仏像づくりに励んでおられます。住職でもある馬渕さんに、仏像づくりの技法や心の在り方について伺いました。
仏師の道を歩もうと思われたきっかけは何ですか。
 子どもの頃、通学路に建具屋さんがありましてね。その作業をいつも見ていました。作業場から漂う木の香りが好きで、いずれ木にかかわる仕事につきたいと子供心に思っていました。16歳で得度をうけて僧侶の道に入ったことがきっかけで、久遠寺というお寺で修行をしながら仏像を彫るようになりました。
 あるとき、お寺にある御祖師様の像の御首を京都の大仏師の松久朋琳師が奉納されたと聞き、いてもたってもおられず京都にある師の工房を訪ね、無謀にも「弟子にしてください」と頼み込み、内弟子にしていただきました。それから10年、けんめいに仏師の道を歩んできました。その間に名だたるお寺の仏像づくりを手伝わせていただきました。現在は独立し、深敬寺というお寺の住職を務めながら仏像を彫っています。もう40年近くになるでしょうか。



仏像にはどんな種類がありますか。
 如来様、菩薩様、明王、天王、祖師の肖像、天部衆などがあり、時代によってそれぞれ特徴が異なっています。渡来の百済観音から始まり、飛鳥、天平、白鳳、奈良、平安と、その時代がかもし出す特徴には必然性があります。


お地蔵様 不動明王

制作過程や技法などを教えてください。
 仏像に使われる木の種類は、檜、樟、松、桂、それに香木の白檀、沈香などです。2尺(1尺=約30.3p)くらいまでの仏像は、一木で彫るのが通常です。2尺以上の仏像は細割法という寄木の伝統技法を使います。この彫り方は鎌倉時代の仏像からみられる技法です。まず原型を作り、その際、倍率に合わせたかまぼこ板状の木に目盛りを書き入れ、全体を膠で張り合わせ彫り進みます。彫り上がった後、お湯の中に入れてぐらぐらと煮込むとばらばらになります。膠はお湯に弱いのです。ばらばらになった一片を比例コンパスで実際の木に写します。それを彫り込み大きな仏像をつくっていくわけです。幾人もの仏師が一度に彫ることができるので短期間で出来上がります。東大寺の運慶、快慶作の金剛力士像などは、80日間ほどで出来たそうです。私も松久朋琳・宗琳師のもとで大きい仏像を彫らせていただきました。

仏像と向き合う心の在り方とはどのようなものなのでしょうか。
 日本の芸や技は「まねる」から始まります。仏像づくりの世界でも、師匠や兄弟子の仕事を脇から盗み見て覚えていくのです。そうして技術を身に付け2・3年もすればそこそこの仏像が彫れます。でも本当はそれからで、魂の「よりしろ」となる仏様をお迎えするとなるとこれが難儀なのです。仏様は彫る前からあるべき姿で木の中におられますから、仏様にお伺いしながら彫っていきますが、その時、木くずとともに自分の中の我や欲を取り除いていくと、やがて仏様が現れてこられるのです。これは、まだ観ていないものを観なければなりませんし、目指すものが遠くにあるのか近くにあるのかもわかりません。これが自分の生き方をも問われる修行です。仏様と向き合っていますと無心の時間を過ごすことができます。魂のこもった仏様をお迎えできればと願いつつ彫っています。
 「一人一佛」。これは松久朋琳先生が提唱された運動です。私もこの運動の一助になれればと思っています。
 仏様は良きも悪しきもすべてを包み込んでくださいます。朋琳先生や宗琳先生も同じでしたよ。