歴史、芸術、経済、語学などさまざまなジャンルにおいて、知っておきたい事柄や興味深い出来事を、
生涯学習センターきらめき講座の講師の方々に、わかりやすく解説していただきます。
 今回、解説していただくのは、現在開講中の講座、「くすりと健康 パート9−加齢と共に華麗になる為に!!−」を
担当されている愛下秀毅先生です。薬のメカニズムや管理方法などについて解説していただきました。

    
無病息災は私たちの永遠の願いです。しかし、時には病気にかかってしまい薬を服用しなければならないこともあります。薬はどのようにして
私たちの体をめぐって、 その効果を発揮するのでしょうか。万が一病気になったときのために、そのメカニズムや正しい服用方法などを知って、
健康維持に役立てましょう。
薬の歴史について簡単に教えてください。

  薬は自然界の植物、動物、鉱物などから経験的に見つけ出して用いたのが始まりで、その歴史は人類の誕生と同時に始まったのではないでしょうか。
 紀元前4000年頃のシュメール人が植物を薬として使ったというのが薬に関する最初の記録です。古代のメソポタミアやエジプトでは、人が病気になるのは悪霊のせいだと信じられていました。 顔には色を塗り、頭や首、 腕にはきらきら光るものを飾って、悪霊が体の中に入らないようにしていたようです。病気になったときは悪霊のせいだと考え、体内から追っ払うために、得体の知れないものをごった煮して、悪霊も驚くほどの悪臭を放つものを飲んだり、 祈とうをしたりしていたようです。
 病気は体の何らかの障害によるものだと認識していたのは、ギリシャ時代(紀元前400年頃)のヒポクラテスです。
彼によって人間の体と病気、 薬についての知識が整理され、人間には自然に病気を治す力が備わっており、その自然治癒力を手助けするのが薬だという考えが提唱されました。
その後、8世紀にはアラビアで医学が隆盛し、 バクダッドに薬局の原型ができました。ルネサンス期(14〜17世紀)には、 無機薬品や薬草抽出エキス剤が利用されていました。
 薬が大きく普及したのは18〜19世紀です。種痘法やワクチンが開発され、阿片からのモルヒネ抽出、薬用植物の効き目の正体が化学物質であることも明らかになりました。
19世紀中頃には、有機化合物(尿素)の初めての合成に成功し、これが現在の化学・医薬品の開発につながっていきます。 20世紀に入り、大きな出来事となったのがペニシリンの発見です。抗生物質の出現で感染症の治療が可能になり、多くの人の命が救われ、平均寿命が20年延びたといわれています。また、医薬品によって高血圧や糖尿病などの症状がコントロールでき、脳心疾患などの合併症が抑えられるようになりました。21世紀にはバイオテクノロジーをはじめとする医・薬学の知識や技術のさらなる向上で、
多くの医薬品が開発されています。





薬のメカニズムを教えてください。

 薬には、内服剤、注射剤、外用剤、吸入剤などがあり、効果が現われるまでの時間は、薬の種類によって違ってきます。このうちもっとも多く使われている内服剤の経路は次のとおりです。口から入った薬剤はまず胃に入り、小腸に運ばれ、そこで吸収されて門脈(胃、腸管などの毛細血管からの血液を集め肝臓に導く血管)を通り肝臓に届きます。肝臓で薬は一部分解されて静脈血管に入り心臓に運ばれます。そして、心臓から動脈血管を通って患部に到達します。内服剤はいったん肝臓に入るので、薬効が発現するまでに通常15〜30分程度かかります。そのほかの薬は肝臓を通らずに、静脈血管内に吸収されますので、すばやく効果が現れます。
 患部に届いた薬は、私たちの細胞の表面にある受容体(特定の物質と結合して、細胞内で特定の生理的作用を引き起こすもの)に結合して、生体反応を引き起こします。例えば、薬が鍵、受容体が鍵穴だとすると、鍵が鍵穴にうまく入って鍵が回り扉が開く。これが薬が効くということです。
また逆に、本来結合するはずの生体内物質の結合を阻害する作用を持つ薬もあります。
薬の正しい服用と管理について教えてください。

 薬の用法は必ず守ってください。内服剤は種類によって、食前、食間、食後などに服用するよう指定されます。目安は次のとおりです。  

 食前  60〜30分前
 食間  食後約2時間経過後(ただし空腹時)
 食後  30分以内

 その際、錠剤を砕いたり、カプセルを開けて中身だけを飲んだりしてはいけません。効かなくなったり、胃を荒らしたりします。薬は水、または白湯といっしょに飲みましょう。コーヒーやお茶、牛乳での服用はやめましょう。
特にアルコールでの服用は厳禁です。また、ある種の降圧剤の服用時にグレープフルーツを食べるのはよくありません。飲食物が薬の効果を強くしたり、弱めたりすることがありますので、注意が必要です。薬を飲んだかどうか覚えていないとき、念のために飲んでおくというのは危険です。不確かな場合は飲まない方がよいのです。そのようなことが起きないように、薬を朝、昼、晩などに分けて、飲んだらチェックをするのも一つの方法です。有効期限を過ぎた古い薬は飲まないのはもちろんですが、誤飲防止のためにも廃棄しましょう。
 一般的に薬の保管場所は冷蔵庫ではなく、高温や日光、湿気を避け、冷暗所(摂氏30度以下。15度くらいがベスト)に保管しましょう。特に、夏場は高温になりますから自動車内に置くのは厳禁です。座剤やシロップ剤、開封した目薬などは、溶解や雑菌の繁殖防止のために冷蔵庫で保管するのがよいでしょう。また、子どもが誤って薬を飲んでしまうことがありますので、子どもの手が届かない場所に保管しましょう。子どもの誤飲事故は、食事の準備や後片づけの時間帯(午前8時〜10時、午後6時〜8時)に多発しています。

漢方薬について簡単に教えてください。

  植物や動物、鉱物などを混ぜないで単一で使っているもの(甘草、大黄など)を生薬、何種類かを混ぜて使っているものを漢方薬と言います。昔はそれぞれの人に合わせて生薬を混ぜて漢方薬を作っていましたが、最近では、一定の分量を混ぜて作った既製品もあります。漢方薬には副作用がないように思う人もいますが、副作用はあります。


医食同源という言葉がありますが、健康を保つため
の食事で大切なことは何ですか。

 栄養素をバランスよくとることです。私たちに必要な栄養素は、タンパク質、脂質、炭水化物(糖質)、ミネラル、ビタミンであり、これらは5大栄養素と呼ばれています。左の表にある「6つの基礎食品」は、栄養素の働きから食品を6つに分類したものです。毎回の食事で、この中から1品ずつ以上摂取すると、自然に栄養学上バランスのとれた食事ができるようになっています。また、農林水産省と厚生労働省が、「食事バランスガイド」を公表しています。多く摂取する順に、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物に分けてイラストに表し、食事の際に、何をどれだけ食べればよいかの目安が一目でわかるようになっています。
 年齢が高くなると、一つには基礎代謝が落ちるのでカロリーのとり過ぎにならないように、また、一つには消化・吸収能力が落ちてくるので栄養失調にならないように気をつけましょう。高齢者は少量を多種類摂取することが大切です。