歴史、芸術、経済、語学などさまざまなジャンルにおいて、知っておきたい事柄や興味深い出来事を、
生涯学習センターきらめき講座の講師の方々に、わかりやすく解説していただきます。
 今回は、現在開講中のきらめき講座「巡る年クラシック」を担当されている高橋曜子先生に、
クラシック音楽の基礎的な事柄を、日本の伝統的な音楽にも触れながら解説していただきました。

    
  私たちの周りにはさまざまな自然の音があります。鳥の鳴き声、川のせせらぎ、木々のざわめき・・・。昔、人々はそれらの音に耳を澄ませ、そこから
自分たちの音をつくり出すようになったのでしょうか。 
 さて、昨年はショパン生誕200年、今年はリストがその年にあたります。テレビやラジオでは特集が組まれたり、記念のCDが発売されたりと、クラシックの
愛好家にはうれしい限りですが、愛好家でない方も、この機会にクラシック音楽に親しんでみてはいかがですか。そこで、その前に少しだけ基礎的な知識
を頭に入れておきましょう。そして、日本の伝統的な音楽についても少し学んでみましょう。 
クラシック音楽とはどのような音楽ですか。

 クラシックとは古典的という意味で、物事の典拠となるものを示しますが、一般的にクラシック音楽といわれているのは、1600年代から1800年代のおよそ300年間につくられた西洋の芸術音楽を指し、バロック、古典派、ロマン派に分かれています。
 バロック(1600年〜1750年)はオペラの誕生とともに始まったのですが、一般には後期バロック(1685年〜)の作曲家に代表されています。例えば『四季』のヴィヴァルディ、『メサイア』のヘンデル。そしてJ.S.バッハといえば『G線上のアリア』や『フーガの技法』のほか、『主よ人の望みの喜びよ』などの宗教声楽曲が多数あります。
 古典派(1750年〜1800年)は、音楽の抽象的な美が整った時代です。ハイドンは『驚愕』や『軍隊』など数多くの交響曲をつくり、交響曲の父といわれました。
モーツァルトはオペラや協奏曲、ピアノソナタなど600以上の曲をつくり、『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』や交響曲『ジュピター』、オペラ『フィガロの結婚』などは多くの人が知るところです。ベートーヴェンの偉大さは古典派に発しながら、交響曲第3番『英雄』から第5番『運命』、第6番『田園』にかけて人間感情あふれるロマン派(1800年〜1900年)の時代を切り開いたことにあります。
 ロマン派初期にはショパン、シューマン、リストが、後期にはワーグナー、チャイコフスキー、マーラーなどがいました。
ショパンはマズルカ、ワルツ、ノクターン、ポロネーズなどのピアノ曲がよく親しまれています。リストは交響詩(風景や文学的・絵画的なものを描写した楽曲)の創始者として知られ、ほかに『ハンガリー狂詩曲』『メフィスト・ワルツ第1番』などがあります。チャイコフスキーは、交響曲『悲愴』、『白鳥の湖』などのバレエ音楽が有名ですね。



交響曲や協奏曲はどのような構成に
なっているのですか。

 交響曲はオーケストラによって演奏される曲で、主に4つの楽章からなっています。そのうちの少なくとも一つがソナタ形式になっているものをいい、古典派のハイドンからベートーヴェンに受け継がれて確立しました。
 第1楽章はソナタ形式、第2楽章は緩徐(かんじょ)楽章(カンタービレ、歌うように)、第3楽章はメヌエット(フランスを起源とする3拍子の優雅な曲)かスケルツォ(同じく3拍子だが急速で諧謔(かいぎゃく)的なもの)、第4楽章はソナタ形式かロンド形式。ソナタ形式は提示部(第1主題と第2主題)から展開部(主題の変形・応用)へ、そして再現部(第1主題と第2主題の再現)、終結部となるものです。ソナタでは第1主題から第2主題への推移やその後の展開なども楽しんでください。モーツァルトはこの推移を違和感なくスムーズに流していてすばらしいですね。ロンド形式は同じ旋律(主題)が、異なる旋律を間に入れながら繰り返される曲の形式です。
 協奏曲はコンチェルトとも呼ばれ、独奏楽器(ピアノ、ヴァイオリンなど)とオーケストラが対話し競合する華麗な形式です。


日本の伝統音楽にはどのようなものがありますか。
また、クラシック音楽との共通点、相違点を教えてください。

 
日本の伝統音楽には、雅楽、能楽、浄瑠璃、歌舞伎などがあります。共通点としては、和洋とも太古の昔は神に歌を捧げたということです。自由リズムといって拍節がなく、あ〜あ〜などの母音を伸ばして歌うものでした。西洋のグレゴリオ聖歌や日本の声明(しょうみょう)(仏教音楽で経文などに節をつけたもの)、民謡も同じような歌い方がありますね。
 日本の雅楽はオーケストラのようにたくさんの楽器(三管、二弦、三鼓)で演奏します。雅楽の中の唐楽でいうと、三管とは笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)。二弦とは楽琵琶(がくびわ)、楽箏(がくそう)。三鼓とは楽太鼓(がくだいこ)、鉦鼓(しょうこ)、鞨鼓(かっこ)です。ちなみにオーケストラは、弦楽器(ヴァイオリン、ビオラ、チェロなど)、管楽器(フルート、クラリネット、トランペットなど)、打楽器(ティンパニーなど)で演奏されます。また、雅楽もクラシック音楽も、時の朝廷や宮廷、貴族などによって発展させられたものです。
 相違点といえば、クラシック音楽のオーケストラは弦楽器が主体ですが、雅楽では管楽器が主体です。また、クラシック音楽は紀元前のギリシャ文化の影響で、論理的、知性的に音楽をとらえ、五線譜で客観化された作品を大切にしますが、雅楽などの日本の伝統音楽は記譜しにくいところがあり、そこにおもしろさがあります。それゆえに、
音楽を精神的なもの、すなわち心でとらえようとしてきたといえるのではないでしょうか。


先生は作曲をされるそうですが、目指す音楽はどのようなものですか。


 音楽は遊びです。枠にはまらず真剣に遊ぶ。そこから湧き出るものを創作につなげていけばいいのではないでしょうか。もちろん基本的な知識は大事です。しかし知識は遊ぶための道具です。大切なことは自分で勉強したり人に教えられたりするだけでなく、自分の人生で失敗も含めた経験を踏まえて大きな知恵に至ること。すばらしい作品にはそのようなものがあるでしょう。
 私は、日本的なことを深めながら世界的水準を目指しています。昨年は平城遷都1300年を記念して多くの雅楽の新作をつくり、今は『あをによし』というマリンバの曲をつくっています。遙か昔、風土に恵まれた奈良の地で、人々が都づくりに励んだその喜びを表現したかったのです。きらめき講座では、ただの知識ではなく、知識のとらえ方を大事にしています。常に前を見据えて学び、自分なりに創造していく姿勢が若い人を育てると思うからです。みんなで楽しんで本当の文化をつくっていきましょう。


          

2011.8「茨木市生涯学習だより」