歴史、芸術、経済、語学などさまざまなジャンルにおいて、知っておきたい事柄や興味深い出来事を、
生涯学習センターきらめき講座の講師の方々に、わかりやすく解説していただきます。
 今回は、前期のきらめき講座「感性学の勧め」を担当されていた見市晃先生に、
感性の必要性やその高め方など、感性にまつわるさまざまな事柄について解説していただきました。

    
   私たちには毎日たくさんの情報がもたらされます。めまぐるしく変わる情報に何とか追いつこうと、「あれもしよう」「これもしなくては」と考え、
あっという間に時間が流れていきます。
そこで、少し立ち止まって感性について考えてみませんか。感性を高めると人生が豊かになります。それを社会全体に生かしていけば、
もっと住みよい社会になるはずです。
一緒に感性について学びましょう。
最近、感性学という学問があると聞きましたが…。

 感性学はまだ新しい領域の学問ですが、大学院で感性学のコースが設けられるようになってきました。これからの社会が人の感性を重要なものとして位置づけしていくと考えられるからでしょう。
 私たちが何かを感じる時(五感:味覚、嗅覚、視覚、触覚、聴覚)、その情報を脳が受けとり、「意識する、意識しない」に識別します(デジタル)。意識しない情報は関心がないので無視され、意識された情報のみがアナログ化され、“おいしい”とか“さわやか”とか“かわいい”などと感じます。その過程では、自分が過去に体験したことなどさまざまな要素が働いていますが、この感じとるということが感性が働いているということなのです。これらについて研究し、応用しようという学問が感性学です。 



子どもは感性が豊かだといわれていますが、大人
になるとどうしてそれを失っていくのでしょうか。

 子どもは10歳前後までいろいろなことに興味を示し、「なぜ?」を連発します。日常生活で初めて経験することがたくさん起こる毎日は不思議に満ちています。
 「お月さまはどうして落ちてこないの?」「電池がないのにどうしてアリは動くの?」「トマトとキュウリは中身が詰まっているのに、ピーマンはどうして詰まっていないの?」。
 そんな時、大人が 「うるさいわねえ。早くごはんを食べなさい」「服を汚さないでよ!」と返すと、子どもはこんなことを聞くとしかられるんだということを学習し、次第に質問をしなくなります。 大人はそんなことよりも早くご飯を食べてもらい片付けたい。そんなことよりも早く勉強してほしいと思うのです。このように、目先のことや知識の詰め込みに関心が偏ると、やがて子どもは自然や周りの変化などに興味を向けなくなり、普通の大人になっていきます。
 大昔、狩猟をしていた頃の人々の感性は鋭かったと思いますよ。食料は野生の動物や植物。獲物を見つけては射止めて食べる。後はのんびり。お腹が減るとまた獲物を探す。時間の感覚は「お腹がへる時間、朝、夜」。そんな生活ですが、獲物を見つけて射止める能力、つまり五感は高めておく必要がありました。飢え死にするからです。
 やがて農耕が始まり土地に定着するようになると、毎年そこに種をまいて、一定の収穫を得るようになります。そして、もっと多くの収穫を得ようと近隣が協力し、それがムラという集団になり、より多くの収穫がもたらされるようになります。しかし、そのために人や土地、収穫物を管理することが必要になってきました。この頃には五感というより、管理能力や利権を主張する能力が必要になってきました。


感性とその対極にある科学との関係を教えて
ください。

 科学は文章で書き表せること、数値化できることが絶対的な条件です。論文に書いてあることをそのとおりに再現してみると同じ結果になるのが科学的ということです。感性は文章や数値では表せない感覚的なものです。しかし、科学を突き詰めたその先のふっと感じるものが、思いもよらない発見につながることもあるのです。
忙しい現代を生きる私たちが感性を高めていくと
どのようになるのですか。

 
人生が豊かになることは確かでしょうね。物事を多面的に見ることができ、他人の立場が理解できるようになります。つまり精神的な自立ができるようになるのです。そうすると人間関係が良くなり、やがてそれが仕事や恋愛、趣味へとつながっていきます。自分の楽しめるものが見つけられやすくなり、ストレスの少ない生活が送れるようになってくると思います。
 大学院などで感性を科学的な視点でとらえて応用し社会に役立てようとする研究も始まっていますので、社会全体が感性というものを生かしていけば、やがて福祉や顧客サービスなどにも反映させることができるでしょう。 


そのために何をすればよいのですか。


  難しいことをする必要はないのです。まずは身近な自然に関心を持ちましょう。例えば、何気なく通っている道には花も咲いていれば樹木もあります。空を仰げば雲の様子もわかります。「この花きれいだなあ」「あの雲の形、おもしろいなあ」などと感じてみてください。それを俳句や絵にしてみるのもいいですね。たまには美術館や音楽会などに出かけて、芸術の素晴らしさにも触れてみましょう。 
 子どもへの接し方も少し変えてみませんか。子どもはもともとすばらしい感性を持っています。「お母さん、この家の前を通るといい匂いがするんだよ!」 。そんな時、少し立ち止まっていい匂いがする花の木を子どもと一緒に見上げてください。子どもの質問を大人が一緒になって考え、
調べてみてください。子どもは大人が受け止めてくれたことに喜びを感じ、ますます感性を磨いていきます。大人も今までにない時間を持つことで心にゆとりが生まれます。自分のものの見方がひょっとして固定的になっていないかと考える余裕も生まれてきます。
 大人は、中学生や高校生、大学生など、若者の話ももっと聞いた方がいいと思いますよ。若い人の発想には、素晴らしくおもしろいものがたくさんあります。大人は意識的に若者に向かって話しかける必要がありますね。
 今の世の中に大切なことは、いつもの習慣から少し離れて違った視点から物事を見てみることです。そして、新しいことに挑戦してみることです。
 生涯学習センターきらめきでは、経験豊かな大人こそ学ぶべき学問だと思い、「感性学の勧め」という講座を前期に行いました。受講生には「感じる力を高める」という目標を設定しましたが、皆さんがもともと持っていた素晴らしい感性を、これからもより高めていただけたらと思います。

          

2011.12「茨木市生涯学習だより」